マダム友達とのランチから帰ると、小さな小包が菊代を待ち構えていた。
　家政婦の話では全く同じ小包が麻美宛にも届いているという。
　菊代の心の中に真っ黒な雲がモクモクとわき起こりだした。
　手紙を書かないといけないから邪魔をしないようにと家政婦に言い渡し、彼女の私室へこもった。
　扉に鍵を掛け分厚いカーテンを引く。
　小包の中身はアダルトビデオのパッケージだった。
　ご丁寧にDVDとビデオテープの両方が入った包みには、1枚の便せんが入っていた。
「念のためにDVDとテープの両方を送ります。どちらでもお好みのほうをご視聴ください」
　パッケージのカバー写真は全裸あるいは半裸で緊縛された女のものだった。
　顔にモザイクがかかってはいるが、彼女には一目で自身と麻美の写真だとわかる。
　そのまま焼き捨ててしまいたいという思いとは裏腹に、彼女の手はデスクの引き出しからDVDプレイヤーを引っ張りだしていた。
　部屋は防音だったが、念のためにヘッドホンをつなぐ。
　DVDのパッケージの封を切り、ディスクを挿入して再生ボタンを押した。

　ビデオを見終わって部屋を出た時、廊下に麻美が突っ立っているのに気づいた。
　以前のつんけんとした態度とは比べられないほどしおらしい様子で菊代に歩み寄る。
　そのまま菊代の肩に額を乗せるように身を預けた。
「いらっしゃい」
　菊代は麻美の肩を抱くようにして私室へ招き入れた。

　大きな肘掛け椅子に全裸で縛りつけられた女。
　両手首はバンダナで一つにまとめて縛られ、椅子の背もたれの上端にくくりつけられている。
　両膝が左右の肘掛けに乗った状態で縛りつけられている。
　腰は座面の前端辺りまでせり出し、黒い茂みの中の赤い柔肉が全開状態で露出している。
「どう、ご気分は？」
　もう一人の女があざ笑うような口調で問いかける。
　女は濃い紫のベビードールに身を包み、他には何も身に付けていない。
　肘掛け椅子の女は答えることができない。
　なぜならさっきまで自身が穿いていた下着を猿ぐつわ代わりに口に押し込まれているからである。
「あら、お返事がないわね。じゃ、もっと良い気分にさせてあげるわ」
　ベビードールの女は化粧用のチークブラシを手に取ると肘掛け椅子の脇に膝をつき、ブラシの先端を肘掛け椅子の生け贄のうなじに這わせた。
　うぅぅっ、という言葉にならないうめき声が猿ぐつわの下から漏れる。
　ブラシはゆっくりと下へ動き、やがて円を描きながら片方の乳房の丘を登っていく。
　丘の頂上へ到達したブラシが乳首の側面を微かな力でそっと掃くと、肘掛け椅子の女は、くぅぅーっ、という声を上げて首を激しく左右に振った。
「乳首だけでこんなに感じちゃうなんて。こんなんじゃ下のほうを責めたらどれだけ狂っちゃうかわからないわ。本当に淫乱な女なのね、麻美ちゃんは」
　残酷な微笑みを浮かべながら菊代が言った。
　肘掛け椅子に下半身全開のあられもない姿で緊縛されている麻美は、堪えがたい屈辱感と押し寄せる快感に翻弄されていた。

　屋敷の主は、後妻に対する娘の態度が柔らかくなったことを喜んでいた。
　この調子なら3人で仲良くやっていけそうだ。
　娘と後妻はというと、彼とは少し違う意味で同じことを考えていたのだった。
　もう離れることはできない、と。


（完）

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